中小アパレルメーカーの企画担当がGeminiで新商品のトレンドリサーチを月20時間から2時間に:企画通過率も1.8倍に

トレンドリサーチに月20時間——それでも企画は半分以上、通らなかった
「また却下か……」
会議室を出るたびに、そう独り言を言っていた時期がある。私は東京・墨田区に本社を置く従業員38名の中小アパレルメーカー「ツキシマファッション」で、レディースカジュアルラインの企画担当をしている佐藤美咲(32歳)だ。
毎月、新商品の企画書を3〜5本提出するのが私の仕事。そのためにやっていたトレンドリサーチが、とにかく重かった。InstagramやPinterest、海外ファッションメディアを手あたり次第に見て、気になる画像をスクリーンショット。それをフォルダに整理して、競合他社のECサイトを巡回して、価格帯を調べて……気づけば月に20時間以上がリサーチだけに消えていた。
しかもその割に、企画の通過率は36%前後。3本出して1本通れば良い方、という状況が2年近く続いていた。「もっとリサーチに時間をかければ通過率が上がるはず」と思っていたが、そもそも時間が足りない。完全に悪循環だった。
その状況が、Geminiとの出会いで劇的に変わった。今では月のリサーチ時間は2時間を切り、企画通過率は65%前後にまで上がっている。この記事では、私が実際に試行錯誤しながら作り上げたGemini活用の方法を、失敗談も含めて包み隠さずお伝えしたい。
なぜGeminiを選んだのか——導入のきっかけ
正直に言うと、最初からGeminiを選んだわけではない。2025年の秋ごろ、社内でAI活用を検討しようという話が出て、まずChatGPTを試した。確かに便利だったが、当時の私の使い方はせいぜい「文章を整える」程度で、業務の中心に据えるほどの変化は起きなかった。
転機になったのは、知人のアパレルコンサルタントから「Geminiは最新のWeb情報を参照しながら回答できるから、トレンドリサーチとの相性が特に良い」という話を聞いたことだ。当時のChatGPT(無料プラン)は知識のカットオフがあり、最新トレンドを調べるには物足りなさを感じていた。Google Gemini(Advanced)はGoogleの検索インデックスとリアルタイムに連携できる。アパレルのトレンドは鮮度が命。これは試してみる価値があると思った。
社内での承認を得るのにも少し時間がかかった。「AIを使って企画を作るのはどうなんだ」という声もあった。ただ、私が提案したのは「AIに企画を作ってもらう」ではなく、「AIにリサーチの下準備をしてもらい、企画の質を上げる時間を確保する」という位置づけ。この説明が功を奏して、2025年11月から月額2,900円のGemini Advancedを個人アカウントで試験導入することになった。
予算は自分で立て替えて、成果が出れば会社に請求するという形でスタートした。今振り返れば、それくらい必死だったし、確かに成果は出た。
具体的な取り組み——Geminiをどう使ったか
① トレンドリサーチの「構造化」から始めた
最初にやったのは、これまでの自分のリサーチ作業を言語化することだ。「なんとなく見て回る」をやめて、何を調べれば企画に使えるのかを整理した。結果、リサーチすべき項目は大きく4つに分けられることがわかった。
- ①マクロトレンド(色・シルエット・素材の大きな流れ)
- ②ターゲット層のライフスタイル変化(何を重視しているか)
- ③競合・参考ブランドの直近動向(価格帯・打ち出し方)
- ④SNSでの実際の反応(何が「刺さっている」か)
この4つを毎月Geminiに調べてもらうための「定型プロンプト」を作った。以下が実際に使っているプロンプトの一つだ。
【プロンプト例①:マクロトレンド把握】
「あなたはアパレル業界のトレンドアナリストです。2026年秋冬シーズンに向けた日本の20〜35歳女性向けカジュアルウェアのトレンドについて、以下の観点でリサーチしてください。①主要カラートレンド(上位5色)②注目シルエット(3〜4つ)③素材・機能性トレンド(3つ)④海外コレクションから日本に波及しそうなキーワード(5つ)。各項目について、根拠となる情報源も簡潔に示してください。」
このプロンプトへの回答を土台に、私が「これは自社のターゲットに刺さるか」という判断を加えていく。Geminiが広い情報を整理してくれるから、私は判断と発想に集中できる。
② 「競合分析」をGeminiに任せる
以前は競合他社のECサイトを手動で巡回して、価格帯や打ち出し方を自分でメモしていた。これが特に時間を食っていた作業で、1社あたり30〜40分かかることもあった。
今は以下のプロンプトで一気にまとめてもらっている。
【プロンプト例②:競合分析】
「日本の20〜35歳女性向けカジュアルアパレルブランドのうち、ECを主軸にしている中価格帯ブランド(メイン価格帯3,000〜12,000円)を5〜8ブランド挙げてください。各ブランドについて、①現在の主力商品カテゴリ②最近の打ち出しキーワードやコンセプト③SNSでの反応が良い商品タイプ④価格設定の特徴——を表形式でまとめてください。情報が古い可能性がある場合はその旨も教えてください。」
もちろんGeminiの情報が100%正確とは限らないので、気になったブランドは自分で確認する。ただ、「何を確認すべきか」が絞られるため、確認作業自体が大幅に短くなった。
③ 「企画の種」を一緒に考えてもらう
リサーチが終わったら、企画アイデアの発散にもGeminiを使う。ここが通過率向上に最も効いたポイントだと感じている。
【プロンプト例③:企画アイデア出し】
「以下の条件で新商品の企画アイデアを10案出してください。[ターゲット]25〜32歳の働く女性、都市部在住、[価格帯]5,000〜9,000円、[シーズン]2026年秋冬、[トレンドキーワード](直前のリサーチ結果を貼り付ける)、[自社の強み]OEM生産で小ロット対応可、ニット素材が得意。各アイデアは商品名・コンセプト1行・想定素材・差別化ポイントの形式で書いてください。」
10案出してもらって、私が気に入った2〜3案を選ぶ。その後さらに「この案を深掘りして、企画書の骨子(背景・ターゲット・商品詳細・想定販売数・訴求ポイント)を作ってください」とリクエストすると、企画書のたたき台が30分以内にできあがる。
④ 「社内説得用」の言語化サポート
企画が通らない原因のひとつが「なぜこれが売れるのかの説明が弱い」ということだと、何度か上司から指摘されていた。自分の中では確信があっても、それを言葉にするのが苦手だった。
【プロンプト例④:説得ロジックの整理】
「以下の商品企画を社内の承認会議でプレゼンします。40代の営業・生産・財務担当者に向けて、この企画が売れる理由を論理的に説明する文章を300字程度で書いてください。感情的な表現は避け、市場データや消費者動向を根拠にしてください。[企画概要](企画内容を貼り付ける)」
このプロンプトで出てきた文章は、そのまま使うのではなく「自分がしっくりくる言葉に直す」ためのたたき台として使っている。Geminiが出した論点を参考に、自分の言葉で再構成する。そうすると、会議での質疑応答にも自信を持って答えられるようになった。
⑤ 月次の「ルーティン化」で習慣にした
毎月15日前後に「月次トレンドレポート作成タイム」を2時間カレンダーに入れた。この2時間でGeminiと対話しながら上記①〜④を一気に回す。それ以外の時間はリサーチに使わないと決めた。「決める」ことで、以前の「隙間時間に少しずつ調べる」が招いていた集中力の分散がなくなった。
失敗談と改善——うまくいかなかったこと3つ
失敗①:Geminiの回答を「そのまま信じた」
導入から1ヶ月目、Geminiが「このブランドは現在○○というコンセプトを前面に打ち出している」と回答した内容をそのまま企画書に引用した。ところが会議の場で「このブランド、半年前に方向転換してませんでしたっけ?」と営業担当に指摘されて赤っ恥をかいた。
原因はシンプルで、Geminiの情報が最新でない可能性を軽視していたこと。いくらリアルタイム検索ができるといっても、細かいブランド動向まで完璧に拾えるわけではない。
改善策: 競合ブランドの具体的な情報は必ず公式サイトかSNSで一次確認する。Geminiの回答は「調べるべき対象を絞るための地図」と位置づけ、地図を現地で確認する手間を省かないようにした。確認作業は1ブランドあたり5〜10分で済むようになり、それでも以前の30〜40分から大幅に短縮できている。
失敗②:プロンプトが雑すぎて「使えない回答」が返ってきた
最初のころ、「秋冬のトレンドを教えて」とだけ入力して、得られた情報が抽象的すぎて企画に使えなかったことが何度もあった。「コートが人気です」「ニュートラルカラーが流行っています」——そんな情報は正直なくてもわかる。
試行錯誤を重ねて気づいたのは、「誰に向けて・何のために・どの形式で」を明示するほど、実用的な回答が返ってくるということ。プロンプトに自社の強みや制約(小ロット生産、価格帯、ターゲット年齢)を毎回盛り込むようにしたら、回答の実用性が格段に上がった。
改善策: 「条件を詰め込む」プロンプトの型を作り、それをNotionにテンプレートとして保存。毎月のパラメータ(シーズン・重点カテゴリなど)だけ書き換えて使い回すようにした。プロンプトを書く時間自体も月に15分以内になった。
失敗③:「Geminiに考えてもらう」ことに頼りすぎた
3ヶ月目ごろ、企画アイデアをほぼGeminiに任せた月があった。出てきたアイデアを「なんとなく良さそう」と思って企画書にまとめて提出したところ、上司から「佐藤さんらしさがない」と言われた。
よく聞くと、「論理は通っているけど、あなたが何を面白いと思っているのかが伝わらない」という指摘だった。Geminiはデータと論理で最適解を出すのが得意だが、「この商品、私は本当にかわいいと思う」という熱量は出せない。その熱量こそが企画を通す上で大事だと痛感した。
改善策: Geminiが出した10案の中から、私が「これは自分でも欲しい」と感じるものだけを選ぶルールを設けた。たとえAIが「市場性が高い」と示唆していても、自分の感覚と合わないものは採用しない。Geminiはあくまでリサーチとロジックのサポーター。最後に「エディターとして選ぶ」のは自分だという原則を守るようにした。
成果と数値——Before/Afterで見えた変化
約7ヶ月間(2025年11月〜2026年6月)の実績をまとめると、変化は数字に明確に表れていた。
項目 | 導入前(2025年4〜10月平均) | 導入後(2025年11月〜2026年6月平均) | 変化 |
|---|---|---|---|
月間リサーチ時間 | 約20〜22時間 | 約1.5〜2時間 | 約90%削減 |
月間企画提出本数 | 3〜4本 | 4〜6本 | 約1.5倍に増加 |
企画通過率 | 36%前後 | 65%前後 | 約1.8倍に向上 |
企画1本あたりの作成時間 | 約8〜10時間 | 約3〜4時間 | 約60%削減 |
Geminiのコスト | — | 月2,900円 | 新規コスト(費用対効果は十分) |
リサーチ時間が90%削減されたことで、空いた時間を「企画の深掘り」と「サンプルを実際に手に取って確認する時間」に充てられるようになった。これが企画通過率向上に直結していると感じている。
上司からのフィードバックも変わった。以前は「リサーチが浅い」「なぜ今これが必要なのかが見えない」という指摘が多かったが、最近は「根拠がしっかりしている」「ターゲットへの解像度が上がった」というコメントをもらうことが増えた。
また、思わぬ副次効果として「自分のアイデアに自信が持てるようになった」という変化がある。Geminiがデータ面を補強してくれるので、「この方向性は感覚だけじゃなくてトレンドとも合致している」という確認ができる。感覚とデータが合致したとき、プレゼン中の声のトーンが変わることに自分でも気づいた。
応用・発展——次に試したいこと
現在のGemini活用はトレンドリサーチと企画書作成が中心だが、いくつか次のステップを考えている。
販売データとの連動
自社のECサイトの売上データをCSV形式でGeminiに読み込ませて、「どのカテゴリ・価格帯・色が直近3ヶ月で伸びているか」を分析してもらう取り組みを始めている。トレンドと実売データを突き合わせることで、「流行っているけど自社では売れない」ものを企画から除外できる精度が上がりそうだ。
カスタマーレビューの分析
自社ECと競合ECのレビューをGeminiに読み込ませて、顧客が「何に不満を感じているか」「何を求めているか」を抽出するプロンプトを試作中だ。「丈が短すぎる」「洗濯後に縮む」などのネガティブレビューを集約すると、「改善型企画」のネタが拾えることに気づいた。
シーズンまたぎの「中期トレンド予測」
現在は直近1シーズン先のトレンドを調べることがほとんどだが、1年後・2年後のトレンドをGeminiに仮説立てしてもらい、それに向けた素材開発や生産パートナーへの打診を早めるという使い方も検討している。中小メーカーは大企業に比べてトレンドへの反応が遅くなりがちだが、AIを使った早期予測でそのハンデを埋められる可能性がある。
チームへの展開
現在は私一人の活用にとどまっているが、社内の他の企画担当(2名)にも同じ手法を共有し始めた。それぞれが個別にプロンプトを磨いて、月に一度「うまくいったプロンプト共有会」を開くことを提案中だ。ナレッジを組織に蓄積していくフェーズに移行したいと考えている。
まとめ——「時間を取り戻す」ことが、仕事の質を変えた
月20時間のリサーチが2時間になったことで、私は何を得たのか。単純に「18時間が空いた」ということではなく、その18時間を「考えること」に使えるようになった、ということだと思っている。
以前の私は、情報を集めることに追われて、考える時間が足りなかった。企画書のクオリティが低かったのは、センスの問題ではなくて時間の問題だった。Geminiはリサーチという「脚力のいる作業」を引き受けてくれた。おかげで私は「判断と発想という頭の仕事」に集中できるようになった。
AIに仕事を奪われる、という不安を持つ人もいると思う。でも私の実感は逆で、「AIのおかげで私らしい仕事ができるようになった」という感覚に近い。Geminiが出すアイデアは整合性が高いが、「これが好き」という選球眼は私にしかない。その組み合わせが、企画の通過率を上げた本当の理由だと信じている。
中小アパレルの企画担当として、同じような壁に悩んでいる方がいれば、まずは月2,900円から試してほしい。プロンプトは最初から上手くなくていい。失敗しながら自分の型を作っていくプロセス自体が、仕事のやり方を見直すきっかけになるはずだ。