小売業のEC運営にChatGPTを活用、商品説明文の作成工数を月80時間削減

小売業のEC運営にChatGPTを活用、商品説明文の作成工数を月80時間削減
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「このままじゃ誰かが倒れる」——商品説明文の地獄から抜け出すまで

去年の秋、うちのスタッフが「手首が痛い」と言い出した。整形外科に行ったら腱鞘炎の手前だと診断されて、しばらくキーボードを打つ量を減らしてほしいと医者に言われた。原因は明らかだった。毎週20〜30点入ってくる新商品の説明文を、ひたすらタイピングし続けていたからだ。

うちはアパレルのECサイトを運営していて、常時500点以上のアイテムを取り扱っている。レディースをメインに、プチプラからちょっとこだわりのある中価格帯まで幅広く扱う、よくある小規模ECだ。スタッフは私を含めて4人。バイヤー、撮影担当、カスタマー対応、そして「なんでもやる人」が私という構成で、商品説明文は主に私ともう一人のスタッフが担当していた。

1点あたりの作業時間は平均で20分。素材タグを確認して、写真を見て、競合他社の似た商品を参考にしながら、ブランドらしい言葉で書き直す。慣れていても20分はかかる。週に25点入荷すれば、それだけで週8時間強。月に換算すると80時間を超える計算になる。それが「商品説明文を書く」というたった一つの作業の話だ。

スタッフの手首が痛くなったとき、私は初めて「これは構造的な問題だ」と気づいた。人を増やすお金もない。でも今の体制は限界に来ている。何かを変えなければいけない、と思って調べ始めたのがChatGPTだった。

AI導入前の実態:数字で見る「消えた時間」

ChatGPTを導入する前に、一度きちんと現状を数値化してみた。感覚的に「大変」と思っていたことを、実際に記録してみると想像以上にひどかった。

  • 週の新着商品数:平均23点(多い週は32点)
  • 1点あたりの説明文作成時間:平均19.5分
  • 月間の説明文作成にかかる時間:約82時間
  • そのうち私が担当:約50時間
  • スタッフが担当:約32時間

月82時間というのは、週5日フルタイムで働く人間が約2週間分働いた計算になる。しかもこれは「説明文を書く」という作業だけの話で、他にもメールマガジンの原稿作成、SNS投稿の文章、カスタマー対応のメール返信など、文章を書く仕事は山積みだった。

さらに問題だったのは、作業の質のばらつきだ。疲れているときに書いた説明文と、集中できているときに書いた説明文では、明らかに温度感が違う。レビューを見ていると「商品説明と実物が違う」というクレームが月に2〜3件あって、よく見ると疲れた状態で書いた説明文に多かった。品質のムラが売上にも影響していたわけだ。

ツール選定:なぜChatGPTだったのか

最初から「ChatGPT一択」と決めていたわけではない。調べてみると、ECサイト向けの商品説明文生成ツールはいくつかあった。

候補として挙がったのは、専門のEC向けコピーライティングAIとして有名な海外ツール、国内の文章生成AIサービス、そしてChatGPTの3つ。それぞれを1週間ずつ試してみた結果、ChatGPTを選んだ理由は主に3つある。

1. 柔軟性の高さ
専門ツールは確かに使いやすいが、出力の形式がある程度固定されている。うちのブランドには独自のトーンがあって、「ちょっと背伸びしたい気持ちに寄り添う」みたいな空気感を大事にしている。それを細かく指定できる自由度がChatGPTには合っていた。

2. コスト
ChatGPT Plusは月額3,000円弱(当時のレート換算)。専門ツールは月額1〜3万円が多く、小規模ECには痛い出費だった。

3. 拡張性
商品説明文だけでなく、メルマガやSNSにも使えると聞いて、最初から「全社的な文章作成ツール」として導入できることが決め手になった。

ただし、最初から完璧に使えたわけではない。ここからが本当の苦労の始まりだった。

最初のプロンプトは「使えない」レベルだった

ChatGPTを契約して最初にやったこと——それは「商品説明文を書いて」と入力することだった。当然、返ってきた文章は汎用的すぎて使い物にならなかった。

「このTシャツは柔らかい素材で着心地が良く、様々なシーンで活躍します。カジュアルなコーディネートにもフォーマルなシーンにも合わせやすい一枚です。」

こんな文章をECサイトに載せても、誰も買わない。これは私でもわかる。問題は「どう指示すれば、使える文章が出てくるか」だった。プロンプトエンジニアリングという言葉は知っていたが、実際にやってみると想像以上に試行錯誤が必要だった。

最初の2週間は、ほぼ毎日プロンプトを改良し続けた。試したパターンは30種類以上。失敗したプロンプトの例をいくつか挙げると:

  • 「おしゃれな商品説明を書いて」→ 抽象的すぎてブレが大きい
  • 「300文字で書いて」→ 文字数は守るが内容が薄い
  • 「20代女性向けに書いて」→ ターゲットは合っているが、うちのブランドらしさが出ない
  • 「競合他社のような文章を書いて」→ 著作権的にグレーな領域に近づく可能性があり中止

特に手こずったのが「ブランドトーン」の再現だった。うちのサイトには独特の言葉遣いがある。「着るだけで気分が上がる」「手放せない定番」「大人のカジュアル」といったフレーズを大切にしているが、それをAIに理解させるのが難しかった。

試行錯誤の末に完成した「使えるプロンプト」

2週間の試行錯誤を経て、ようやく実用レベルのプロンプトが完成した。今も使い続けているベースプロンプトはこれだ。

あなたはアパレルECサイトのベテランコピーライターです。以下のブランドコンセプトと商品情報をもとに、ECサイト掲載用の商品説明文を作成してください。

【ブランドコンセプト】
「毎日の服選びを、もっと楽しく。」をテーマに、20〜35歳の働く女性をターゲットにしています。「大人のカジュアル」「着るだけで気分が上がる」「手放せない定番」というキーワードを大切にしています。過度にキラキラした表現ではなく、等身大の言葉で共感を生む文章を心がけています。

【参考にする文体(過去の説明文の例)】
「ふんわりとしたシルエットが女性らしさを引き立てるワンピース。コットン100%の素材は一日着ていても蒸れにくく、仕事帰りのデートにもそのまま使えます。ベルトでウエストをマークすれば、よりスタイルアップした印象に。」

【商品情報】
- 商品名:[商品名]
- カテゴリ:[Tシャツ/パンツ/ワンピースなど]
- 素材:[素材名と割合]
- カラー展開:[カラー名]
- サイズ展開:[S/M/L/XLなど]
- 特徴・セールスポイント:[箇条書きで3〜5点]
- ターゲットシーン:[通勤/休日/デートなど]

【出力要件】
- 文字数:150〜200文字
- 素材の肌触りや着心地を具体的に表現する
- コーディネート提案を1つ含める
- 「〜です。〜ます。」調で統一する
- 過度な形容詞(「最高」「完璧」など)は使わない

このプロンプトのポイントは「参考にする文体」の欄だ。過去に自分たちが書いた説明文の中から、特に気に入っているものを3〜5個貼り付けておく。これによってAIが「このブランドの雰囲気」を学習してくれる。最初にこれをやっていなかったから、2週間も迷走したのだと後から気づいた。

GPT-4oの画像認識で、さらに一歩進んだ

プロンプトが安定してきた頃、GPT-4oの画像認識機能を使い始めた。これが想像以上に便利だった。

従来のフローは「商品タグを確認→情報を入力→プロンプトを送信」という3ステップだったが、画像認識を使うと「商品写真をアップロード→プロンプトを送信」の2ステップになる。商品写真を見たAIが、色味や素材感、シルエットを自分で読み取って説明文に反映してくれるからだ。

実際に試したときの驚きは今でも覚えている。ベージュとも白とも言い切れない微妙なオフホワイトのブラウスの写真をアップロードしたら、AIが「クリームホワイトの優しいトーン」と表現してくれた。私なら「白っぽいベージュ」と書いてしまいそうなところを、ずっと的確な言葉を選んでくれた。

画像認識を使う際のプロンプトはシンプルだ。

この商品写真を見て、先ほど共有したブランドコンセプトと文体に合わせたECサイト用の商品説明文(150〜200文字)を作成してください。素材は[素材名]、サイズ展開は[サイズ]です。コーディネート提案も1つ含めてください。

これで1点あたりの作業時間が、入力1分+確認・修正2分の合計3分以下になった。

ぶつかった壁:「ブランドトーンの崩壊」事件

順調に見えた導入だったが、大きな失敗もあった。導入から2ヶ月目のことだ。

ChatGPTのアップデートがあった後から、生成される文章のトーンが微妙に変わり始めた。具体的には、少しフォーマルで硬い表現が増えてきた。「〜していただけます」「〜となっております」といった、うちのブランドらしくない敬語表現が混ざるようになったのだ。

気づいたのはスタッフではなく、常連のお客様からのメッセージだった。「最近、商品の説明文の雰囲気が変わりましたよね?前の方が好きでした」という一言。正直、ヒヤッとした。

原因を調べると、プロンプトに入れていた「参考文体」の例文が古くなっていたことと、ChatGPTのモデルが更新されたことで出力傾向が変わっていたことが重なっていた。

対策として取り入れたのが「NGワードリスト」の追加だ。

【使用禁止ワード・表現】
- 「〜していただけます」「〜となっております」などの過度な丁寧語
- 「最高品質」「業界最高水準」などの誇大表現
- 「ぜひ」(うちのブランドでは使わない方針)
- カタカナ英語の多用(「コンフォータブル」など)

さらに、毎月1回「プロンプトメンテナンス」の日を設けることにした。その月に書いた説明文の中から特に気に入ったものを選び直して、参考文体の例文を更新する。これによってブランドトーンのドリフト(少しずつずれていく現象)を防げるようになった。

メルマガとSNS投稿にも展開、さらに工数削減

商品説明文の自動化が軌道に乗ったところで、同じ仕組みをメールマガジンとSNS投稿にも広げた。

メールマガジンへの応用

週1回発行しているメルマガは、従来2〜3時間かけて書いていた。特に「今週のおすすめ商品コーナー」の文章作成が大変で、同じような文章を書き続けることへの精神的な疲弊も大きかった。

ChatGPTを使ったフローはこうだ。まず今週の新着商品の中からピックアップした5〜8点の商品情報(すでに作成済みの商品説明文を再利用)をまとめて入力し、「これらの商品を自然な流れで紹介するメルマガ本文(800〜1000文字)を書いてください」と指示する。季節感や最近のトレンドも加味してほしい場合は、「今週は秋口のコーデ提案を意識して」などの一言を追加する。

メルマガ作成時間は2〜3時間から40分程度に短縮された。

Instagram投稿への応用

Instagramの投稿文は、商品説明文よりもカジュアルで「映え」を意識した文体が必要だ。そこで別のプロンプトテンプレートを用意した。

以下の商品説明文をベースに、Instagram投稿用のキャプションを作成してください。

【商品説明文】:[作成済みの説明文を貼り付け]

【要件】
- 文字数:100〜150文字
- 最初の一文は「読み続けたくなる」フックにする
- ハッシュタグは含めない(別途追加します)
- 絵文字を2〜3個使う
- 「今すぐ欲しい」と思わせる購買意欲を高める表現を入れる

商品説明文が既にあるので、そこからInstagram用に変換するだけ。1投稿あたり5分かかっていた作業が1分以内になった。週5〜7投稿として、月で換算すると約2時間の削減になる。

最終的な成果:数字で振り返る6ヶ月

ChatGPT導入から6ヶ月が経った時点での成果をまとめると、こうなる。

  • 商品説明文の作成時間:月82時間 → 月20時間(75%削減)
  • 1点あたりの作業時間:平均19.5分 → 平均3分以下
  • メルマガ作成時間:月8〜12時間 → 月2.5時間(約75%削減)
  • SNS投稿文作成時間:月8時間 → 月1.5時間(約80%削減)
  • 合計削減時間:月約80時間以上

削減できた時間は、主に商品企画とカスタマー対応の改善に充てた。特にカスタマー対応の質が上がったことで、リピート率が6ヶ月で8%向上した。商品説明文の品質が安定したことで、「説明と違う」系のクレームも月2〜3件から月0〜1件に減った。

スタッフの腱鞘炎の件も、タイピング量が大幅に減ったことで症状が改善した。これが一番うれしかった成果かもしれない。

コストについても触れておくと、ChatGPT Plusの月額費用(約3,000円)に対して、削減できた人件費換算は月80時間×時給換算で数十万円規模になる。ROIは圧倒的だ。

これから導入する人へ:最初の一週間でやること

同じような状況で悩んでいるEC運営者に向けて、実際にやってみてわかった「最初の一週間でやるべきこと」をまとめておく。

1日目:現状を数値化する
まず今どれだけの時間を文章作成に使っているかを記録する。感覚ではなく、実際にタイマーを使って計測すること。「思ったより多い」という発見が、導入の動機になる。

2〜3日目:過去の「良い文章」を集める
自分たちが書いた説明文の中から、「これは良い」と思うものを10〜20個選んでおく。これがプロンプトの参考文体になる。ここを手抜きすると後で苦労する。

4〜5日目:プロンプトを作り込む
最初から完璧なプロンプトを作ろうとしなくていい。まず動くものを作って、実際に使いながら改良する。最初の2週間は「プロンプトを育てる期間」だと思って、毎日少しずつ改善する。

6〜7日目:実際の商品で10点テストする
実際に販売している商品10点で試して、全部に手を加えずそのまま使えるかチェックする。5点以上そのまま使えるなら、プロンプトは合格ラインだ。

一つだけ強調しておきたいのは、「AIが書いた文章をそのまま使わない」という原則だ。必ず人間の目で確認して、ブランドの雰囲気に合わない表現は直す。AIはあくまで「下書き職人」であって、最終的な判断は人間がする。この感覚を持ち続けることが、長く使い続けるコツだと思っている。

あと、プロンプトはチームで共有できるドキュメントに保存しておくこと。私はNotionで管理していて、「商品説明文用」「メルマガ用」「Instagram用」とカテゴリ分けして、誰でも使えるようにしている。スタッフが変わっても引き継ぎがスムーズになるし、プロンプトの改善履歴も残せる。

手首を痛めたスタッフは今、空いた時間でカスタマーとのコミュニケーション施策を考えてくれている。「商品説明文を書き続ける係」から「お客様との関係を作る係」へ。これが、AIを導入して一番良かったことだと思っている。

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