物流・運輸会社がAIで配送ルート最適化、燃料費を月15万円削減した方法

物流・運輸会社がAIで配送ルート最適化、燃料費を月15万円削減した方法
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「また新人が迷子になってる」――毎朝7時の地獄のような朝礼

埼玉県越谷市に拠点を置く食品配送会社、トラック12台・ドライバー15名。社長の田中さん(仮名)が毎朝7時に感じていたのは、「今日も誰かが迷子になる」という妙な確信だった。

「ベテランの鈴木さんは20年のキャリアがあって、頭の中に地図が入ってる。でも去年入った若い子たちは、スマホのナビに頼りながら走るから、信号で止まるたびに次の住所を入力して……。結果、1日の走行距離が鈴木さんより30kmも多くなることがザラにあった」

燃料費の明細を見るたびに胃が痛くなる。軽油代だけで月に約85万円。「これ、絶対おかしい」と思いながらも、何年もそのまま放置してきた。

転機が訪れたのは2023年の秋。同業者の飲み会で「ChatGPTとGoogleマップを組み合わせてルート組んでる会社があるらしい」という話を聞いた。「半信半疑でしたよ。AIって、チャットするやつでしょ?配送ルートと何の関係があるんだって」

それから約8ヶ月後、田中さんの会社は月15万円の燃料費削減に成功した。この記事では、その全プロセスを包み隠さず公開する。

AI導入前の「実態」――数字で見る非効率の深さ

まず、現状把握から始めた。1ヶ月間、全ドライバーの走行距離と配送件数を記録し、ベテランと新人の差を可視化した。その結果は衝撃的だった。

  • ベテランドライバー(経験5年以上、3名):1日平均走行距離 142km、平均配送件数 18件
  • 中堅ドライバー(経験2〜5年、5名):1日平均走行距離 163km、平均配送件数 16件
  • 新人ドライバー(経験2年未満、7名):1日平均走行距離 187km、平均配送件数 14件

ベテランと新人で1日45kmの差。12台全体で見ると、もしすべてのドライバーがベテラン並みのルートを走れれば、1日あたり約270kmの短縮が可能という計算になる。

燃費を8km/L、軽油単価を155円/Lで計算すると、270km ÷ 8km/L × 155円 ≒ 1日あたり約5,231円の無駄。22営業日で約11.5万円。「ルートの非効率だけで毎月10万円以上飛んでる」という事実を突きつけられた田中さんは、さすがに動かざるを得なかった。

さらに深刻だったのが残業代だ。新人ドライバーが非効率なルートを走ることで帰庫が遅くなり、1人あたり月平均12時間の残業が発生していた。時給換算で1,800円として、7名×12時間×1,800円 ≒ 月15万円の残業代。燃料費と合わせると、非効率なルートのせいで毎月25万円以上が消えていた計算だ。

ツール選定の迷走――「まずChatGPTだけで試した」失敗

最初のアプローチは単純だった。ChatGPT(GPT-4)に配送先リストを貼り付けて「最適なルートを教えて」と聞いてみたのだ。

【最初に試したプロンプト】
「以下の住所に配送するドライバーがいます。埼玉県越谷市を出発して、効率的な順番に並べ替えてください。
1. 東京都江東区亀戸3-1-1
2. 東京都墨田区錦糸町2-5-3
3. 千葉県市川市市川1-2-3
4. 東京都葛飾区青砥5-2-1
(以下20件続く)」

ChatGPTは確かに「地理的に近い順」に並べ替えてくれた。しかし、実際に走ってみると問題が続出した。

「ChatGPTが提案したルートは、直線距離では近くても、実際の道路では大回りになる場所があった。江東区から葛飾区に行くのに、なぜか墨田区を経由するルートを提案してきて、ドライバーが『これ絶対おかしい』って言ってきた」

そもそもChatGPTは「リアルタイムの交通情報」を持っていない。朝の渋滞ピーク時間帯に特定の道路を通るルートを提案されても、実際は渋滞で立ち往生するケースが相次いだ。2週間試して、現場から「使えない」という声が上がり始めた。

「正直、ここで諦めかけました。AIって結局、机上の空論なんじゃないかって」

転換点――Google Maps APIとの組み合わせという発想

諦めかけていた田中さんが救われたのは、地元の商工会議所が主催するDXセミナーだった。登壇していたシステムエンジニアの話を聞いて、「ChatGPTだけでルート最適化しようとしていたこと自体が間違いだった」と気づいた。

正しいアプローチはこうだ。

  • Google Maps API(Distance Matrix API):実際の道路距離・所要時間・リアルタイム渋滞情報を取得する
  • ChatGPT API:取得したデータを元に、配送順序の最適化ロジックを組む(巡回セールスマン問題の近似解法)
  • フロントエンド(スマホアプリ):ドライバーが見やすい形でルートを表示する

「Google Mapsが実際の道路情報を持ってて、ChatGPTがそのデータを使って考える。役割分担ですよね。ChatGPTに地図を読ませようとしていたのが間違いだった」

システム開発は外注することにした。地元のIT会社3社に見積もりを依頼したところ、金額は60万円〜150万円とバラバラだった。最終的に選んだのは埼玉県内の中小IT会社で、見積もり80万円。決め手は「物流業界での開発実績があった」こと、そして「プロトタイプを2週間で作って試せる」という提案だった。

システムの仕組みと具体的なプロンプト設計

開発されたシステムの全体像はシンプルだ。毎朝6時30分に前日の受注データが自動でシステムに取り込まれ、7時にはドライバー全員のスマートフォンに最適ルートが表示される。

技術的な核心部分、特にChatGPT APIへのプロンプト設計については、開発者から許可を得て公開する。

【システムが使用している実際のプロンプト(一部抜粋)】

「あなたは配送ルート最適化の専門家です。以下の条件と距離行列データを元に、最も効率的な配送順序を提案してください。

【出発地】埼玉県越谷市(緯度: 35.8915, 経度: 139.7925)
【配送先と時間指定】
- 配送先A: 東京都江東区亀戸3-1-1(時間指定: 9:00〜11:00)
- 配送先B: 東京都墨田区錦糸町2-5-3(時間指定: なし)
- 配送先C: 千葉県市川市市川1-2-3(時間指定: 14:00〜16:00)
(以下、Google Maps APIから取得した各地点間の実際の所要時間行列が続く)

【制約条件】
- 時間指定がある配送先は必ずその時間内に到着すること
- 1ドライバーの最大稼働時間は9時間(休憩1時間含む)
- 昼食休憩は12:00〜13:00の間に1時間取ること
- 食品配送のため、冷蔵品は優先的に早い時間帯に配送すること

最適な配送順序をJSON形式で出力してください。各配送先に対して、推定到着時刻と前の地点からの所要時間も含めてください。」

このプロンプトのポイントは3つある。①役割を明確に定義すること(「配送ルート最適化の専門家」)、②制約条件を具体的に列挙すること、③出力形式をJSON指定にすることでシステムが自動処理できるようにすること、だ。

「最初のプロトタイプでは、ChatGPTへのプロンプトに制約条件がなかった。だから昼食休憩を考慮しないルートが出てきたり、冷蔵品を最後に配送するルートを提案してきたりして、現場から苦情が来た」と開発担当者は振り返る。

導入後3ヶ月間の「壁」と失敗の連続

システムが稼働し始めた最初の1ヶ月は、正直なところ散々だった。

失敗①:ドライバーがシステムを無視した

最大の誤算は「人間の問題」だった。ベテランドライバーの鈴木さんは、システムが提案するルートを見て「こんなルート走れるか」と言い放ち、自分のやり方を貫き通した。「20年の経験を否定されたみたいで、正直むかついた」と後に本人も語っている。

新人ドライバーはシステムを信頼しすぎて、渋滞情報が更新されていない時間帯でも「システムが言うから」と混雑した道に突っ込んでいった。

失敗②:Google Maps APIのコストが予想外に膨らんだ

Google Maps APIは使用量に応じた従量課金制だ。Distance Matrix APIは1,000リクエストあたり約500円(2023年当時)。最初の月、配送先の全組み合わせを毎回計算していたため、月のAPI料金が4万円を超えた。「システム開発費を回収する前に、ランニングコストで赤字になりそうだった」

開発者に相談したところ、「全組み合わせを毎回計算する必要はない。一度計算したデータをキャッシュして再利用する仕組みを入れれば、コストを8割削減できる」という解決策が提示された。改修費用は追加で15万円かかったが、API料金が月8,000円程度に落ち着いた。

失敗③:時間指定配送の抜け漏れ

導入2ヶ月目に大きなミスが起きた。午前指定の配送先に午後に到着してしまったのだ。原因を調べると、受注データのフォーマットが変わったことで、時間指定の列がシステムに正しく読み込まれていなかった。お客様からのクレームが入り、田中さんは直接謝罪に出向いた。

「あの時は『やっぱりシステムなんて信用できない』って思いました。でも、人間が手動でやってた時も同じミスは起きてたんですよ。ただ、AIのせいにしやすいから、余計に批判を受けた」

壁を乗り越えた3つの改善策

改善①:ベテランの「暗黙知」をシステムに取り込む

鈴木さんの反発を解消するために取った手は意外なものだった。「鈴木さんに、システムの改善に協力してほしい」とお願いしたのだ。

具体的には、鈴木さんが「ここは渋滞するから避けるべき」「この道は大型車が通れない」といった経験知を、システムの「禁止ルート・注意ルート」データベースとして登録してもらった。週1回30分の「ルートレビュー会議」を設けて、ドライバー全員がシステムの提案に対してフィードバックを入力できる仕組みも作った。

「自分の知識がシステムに反映されるとわかったら、鈴木さんの態度が変わった。『俺の経験がAIを育ててる』って言ってくれるようになって。今では一番熱心にフィードバックを入れてくれてる」

改善②:APIコストの最適化

前述のキャッシュ導入に加え、配送先の「ゾーン分け」を導入した。越谷市から半径30km圏内を5つのゾーンに分け、同じゾーン内の配送先については事前に計算した距離行列データを使い回す。ゾーンをまたぐ場合のみリアルタイムでAPIを叩く設計にした結果、API料金は月5,000円台に安定した。

改善③:データ入力の自動検証

時間指定の抜け漏れ問題に対しては、受注データの取り込み時に「時間指定フラグが空白の場合は担当者に確認アラートを出す」という検証ロジックを追加した。また、ChatGPTへのプロンプトに「時間指定がある配送先の件数と、出力結果の時間指定件数が一致しているかを必ず確認し、不一致の場合はエラーとして報告してください」という一文を加えた。

この改修以降、時間指定の抜け漏れはゼロになった。

導入8ヶ月後の成果――数字が証明する変化

システム稼働から8ヶ月が経過した時点でのデータを公開する。

燃料費の削減

  • 導入前の月間燃料費:約85万円
  • 導入後の月間燃料費:約70万円
  • 削減額:月約15万円(年間180万円)

内訳を細かく見ると、走行距離の削減が約7.4万円分(1台あたり平均15km/日の短縮、12台×15km×22日÷8km/L×155円)、残業削減が約7.6万円分(新人ドライバーの平均残業が月12時間→5時間に減少)となっている。

ドライバーの定着率改善

予想外に大きかったのがこの効果だ。導入前、入社3ヶ月以内の新人ドライバーの離職率は40%だった。「道がわからなくて焦る」「ルートを間違えて怒られる」というストレスが主な離職理由だったという。

システム導入後、同じ期間の離職率は15%に低下した。採用・育成コストを1人あたり50万円と試算すると、離職率の改善だけで年間換算で相当額のコスト削減になっている。

顧客満足度の向上

配達時間の予測精度が上がったことで、「何時に来るの?」という問い合わせ電話が月平均約60件から18件に減少。事務担当者の負担が減り、他の業務に時間を使えるようになった。

システム投資の回収

開発費80万円+改修費15万円+月間ランニングコスト(API料金等)約1万円。月15万円の削減効果で計算すると、投資回収期間は約6.5ヶ月。8ヶ月目には黒字転換し、現在は純粋なコスト削減効果を享受している。

「AIを使う」前に知っておくべきこと――同業者へのリアルなアドバイス

田中さんに「同じことをやろうとしている運送会社にアドバイスをするとしたら?」と聞いた。返ってきた言葉は、成功体験の話ではなく、失敗から学んだ教訓だった。

まず「現状の数値」を取れ

「AIを入れる前に、今どれだけ非効率なのかを数字で把握することが絶対に必要。感覚で『無駄がある』と思っていても、数字がないと投資判断ができないし、導入後の効果測定もできない。うちは1ヶ月かけてデータを取ったけど、それが全ての出発点だった」

ChatGPT単体でルート最適化しようとするな

「これは本当に最初の失敗から学んだこと。ChatGPTは賢いけど、リアルタイムの道路情報は持っていない。Google Maps APIやYahoo!カーナビAPIと組み合わせて初めて実用的になる。この組み合わせを知っているかどうかで、結果が全然違う」

ベテランを「敵」にするな、「協力者」にしろ

「AIを入れる時、一番の抵抗勢力になるのは経験豊富な人たち。でも、その人たちの知識こそがシステムを改善する宝。『あなたの経験をAIに教えてほしい』というアプローチが、現場の受け入れを劇的に変えた」

小さく始めて、失敗を許容する文化を作れ

「最初から全台に導入しようとしたら、失敗した時のダメージが大きすぎる。うちは最初の2週間、2台だけで試した。それでも色々問題が出たけど、小規模だったから修正が早かった。プロトタイプを作って試す、というIT会社の提案を受け入れたのが正解だった」

ランニングコストを見落とすな

「開発費だけ見て導入を決めたら、APIのランニングコストで驚いた。Google Maps APIは使い方を間違えると、想定外のコストになる。見積もりの段階で、月間のAPI使用量とコストを必ずシミュレーションしてもらうべき」

この取り組みの先にあるもの

田中さんは今、次のフェーズを考えている。現在のシステムは「配送ルートの最適化」に特化しているが、次は「需要予測」との連携だ。

「配送先ごとの注文パターンをAIに学習させて、『明日はここが増える可能性が高い』という予測ができれば、前日の夕方にはドライバーのシフトを組み替えられる。今は朝に受注データが確定してからルートを組むけど、前日に大枠を決めておければ、もっと効率化できる」

物流業界のDXは、大手企業だけの話ではない。トラック12台の中小運送会社でも、80万円の投資と現場の試行錯誤で、年間180万円のコスト削減が実現できた。

重要なのは「AIに全部やってもらおう」という発想を捨てることだ。ChatGPTはルートを「考える」ことができる。Google Maps APIは現実の道路情報を「知っている」。ベテランドライバーは現場の「暗黙知」を持っている。この3つを組み合わせて初めて、使えるシステムが生まれる。

田中さんが最後にこう言った。「AIって、賢い新人みたいなもんですよ。知識はすごいけど、現場を知らない。ベテランが教えてあげれば、どんどん使えるようになる。うちのシステムも、鈴木さんが育ててくれた部分が大きい」

現場の知恵とAIの計算力。その掛け合わせこそが、物流DXの本質かもしれない。

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