地方の測量・土木設計事務所がCopilotで官公庁向け入札書類を週16時間から2時間に短縮:受注件数が四半期1.4倍に
地方の測量・土木設計事務所がCopilotで官公庁向け入札書類を週16時間から2時間に短縮:受注件数が四半期1.4倍に
「書類を書くために、仕事が止まる」——地方の中小事務所が抱える慢性的な悩み
正直に言います。私は測量と設計の仕事が好きで、この業界に入りました。でも、ここ数年、現場に出る時間よりも事務所のパソコンの前で書類を打ち込んでいる時間の方が長くなっていた。特に官公庁向けの入札案件は、技術提案書・施工計画書・品質管理計画書・工程表・会社概要など、ひとつの案件で10種類以上の書類を揃える必要があります。
「また似たような書類を一から書くのか……」という感覚、地方の小規模設計事務所や測量会社で働いている方なら、共感してもらえるんじゃないでしょうか。しかも案件ごとに発注者(市町村・県・国交省)が異なり、フォーマットや記載要領が微妙にバラバラ。使いまわしができそうで、できない。この"似てるけど同じじゃない"という罠が、毎週16時間以上を飲み込んでいました。
うちの事務所とAI導入を決めた背景
私が代表を務める「みなみ測量設計事務所」は、九州の地方都市に拠点を置く社員9名の小さな会社です。測量・土木設計・補償コンサルタントを手がけており、主な取引先は地元市町村や県の土木事務所。年間で20〜30件の官公庁案件を受注しています。
転機は2025年の秋ごろでした。競争入札の参加件数を増やしたいのに、書類作成の工数がボトルネックになっていた。具体的には、週に1〜2件の案件に応募するだけで、担当スタッフの中村(30代・設計担当)が週16時間以上を入札書類に費やしていた。残業が続き、本来の設計業務のクオリティにも影響が出始めていました。
「もっと多くの案件に手を挙げたいのに、書く時間がない」——これが実態でした。そんなとき、業界の勉強会でMicrosoft 365 Copilotを入札書類に活用しているという他社の話を聞いたんです。「本当に使えるのか」と半信半疑でしたが、ちょうどMicrosoft 365のライセンスはすでに導入済みだったこともあり、2025年11月から本格的に試してみることにしました。
具体的な取り組み:Copilotをどう使ったか
まず「入札書類の構造」を整理することから始めた
最初にやったことは、AIに書類を書かせることではありませんでした。まず私と中村で、これまでに作成した入札書類を全部見直して「書類の種類ごとに必要な要素」を一覧化しました。官公庁案件の入札書類は、大きく分けると以下のカテゴリに整理できます。
- 会社・技術者の資格・実績を示す書類(会社概要、配置予定技術者調書、同種・類似業務実績)
- 技術力を示す書類(技術提案書、特定テーマへの対応方針)
- 実施方針を示す書類(業務実施方針、工程計画)
- 品質・安全管理を示す書類(品質管理計画書、安全管理計画書)
- 地域貢献・社会的価値を示す書類(地域精通度、地元雇用への取り組み)
この整理をしたことで、Copilotに何をどう頼めばいいかが見えてきました。ポイントは「ゼロから書かせない」こと。過去の採用実績のある書類を元データとして活用し、Copilotには「ブラッシュアップ」「転用・再構成」「新規テーマへの対応」の3役割を担わせると決めました。
実際のワークフロー:4ステップで入札書類を仕上げる
中村が確立したのは、以下の4ステップです。これを覚えてからは、一件あたりの書類作成が劇的に速くなりました。
- ステップ1:案件情報の読み込みと構造化
入札公告・特記仕様書・技術提案書作成要領をWord/PDFで手元に用意し、Copilotに案件の概要・評価項目・ページ数制限などを要約させる - ステップ2:過去書類の再利用候補を抽出
過去の採用書類(社内ライブラリ化済み)の中から、類似案件のものをCopilotに比較・選定させる - ステップ3:差分をCopilotで補完・再構成
今回の案件に合わせてCopilotが過去文章を書き換え・追記する。技術的な固有情報(測量精度・使用機器・工程など)は人間が入力 - ステップ4:最終確認と整形
表現の誤りや矛盾点のチェック、ページ数の調整をCopilotに依頼。最終目視確認は必ず人間が行う
実際に使ったプロンプト例
ここが一番聞きたいところだと思うので、実際に使っているプロンプトを5つ紹介します。そのまま使うのではなく、自社の状況に合わせて調整してみてください。
プロンプト①:案件要件の整理
「以下の特記仕様書(テキスト貼り付け)を読んで、①業務の目的と概要、②技術提案書で評価される項目とその配点、③ページ数・字数制限、④提出期限を一覧表にまとめてください。専門用語は保持したまま、箇条書きで整理してください。」
プロンプト②:過去書類の転用・再構成
「以下は昨年度の〇〇市道路測量業務の技術提案書(業務実施方針の項目、テキスト貼り付け)です。今回の案件は△△町の河川測量業務で、重点評価項目は『効率的な成果品作成への取り組み』です。過去の文章を活かしつつ、今回の案件に合わせて800文字以内で書き換えてください。測量機器はトータルステーション+RTK-GNSSを使用します。」
プロンプト③:技術提案の肉付け
「河川横断測量において、ICT測量(UAVレーザー)を活用することで作業効率を高める提案を考えています。以下の条件(河川延長3km、幅員最大80m、成果品はSIMA形式)を踏まえて、発注者にわかりやすい技術提案文を600字程度で書いてください。専門的すぎず、行政担当者が読んでも理解できる表現を使ってください。」
プロンプト④:品質管理計画書の骨格作成
「土木設計業務における品質管理計画書の標準的な記載項目と、各項目で書くべき内容のポイントを一覧化してください。その後、以下の業務情報(業務名、工期、主要成果品、配置技術者)を使って、各項目の下書きを作成してください。業務情報:〔ここに入力〕」
プロンプト⑤:表現の最終チェックと改善提案
「以下の技術提案書(テキスト貼り付け)を読んで、①論理的に矛盾している箇所、②同じ表現が繰り返されている箇所、③もっと具体的に書けそうな箇所を指摘してください。修正案も合わせて提示してください。」
社内ライブラリの整備がCopilot活用の土台になった
プロンプトと同じくらい重要だったのが、「使える過去書類」を社内でストックすることでした。これまでは担当者のローカルPCにバラバラに保存されていた採用書類を、SharePoint上の「入札書類ライブラリ」に一元化。案件種別(測量/設計/補償)、発注機関(市町村/県/国)、評価テーマ別にフォルダ分けし、Copilotが参照しやすい環境を整えました。
この整備に最初の2週間で約8時間かかりましたが、投資として考えれば十分元が取れました。Copilotはインプットの質に比例して出力の質が上がります。良い過去書類があれば、Copilotはそれをしっかりリサイクルしてくれます。
失敗談と改善:うまくいかなかった3つのこと
失敗①「全部Copilotに書かせたら、無難すぎる書類になった」
最初の1〜2件、「楽になった!」と喜んでCopilotに丸投げで書いてもらった技術提案書を提出したところ、結果は不採用。評価担当の知人から非公式に聞いた感触では「どこの会社の書類も似たような内容」という印象を持たれやすいとのことでした。
改善策:Copilotが出した下書きをベースに、必ず「うちの事務所ならではの実績や機器・手法」を人間が追記するルールを設けました。例えば「弊社は○○市内に倉庫を持ち、機材の現地保管が可能」「主任技術者の田中は△△地区の地質に精通している」など、汎用的な表現ではなく具体的な強みを1〜2箇所挿入するだけで、書類の個性が出るようになりました。
失敗②「技術的な数値をCopilotが"それっぽく"作ってしまった」
工程計画書を作成させたとき、Copilotが「現地測量:〇日間」という数値を自動的に埋めてきたことがありました。その数値が実際の案件条件とは合っていない根拠のない数字で、危うく発注者への提出書類に載せてしまうところでした。
改善策:数値・日数・費用・固有名詞などの「ファクト情報」は必ずプロンプトで人間側が指定するルールにしました。「Copilotが埋めた数値は信用しない」を鉄則とし、チェックリストに「数値の出所確認」を必須項目として追加。書類完成後の最終チェックは必ず技術者本人が行います。
失敗③「発注機関によってフォーマット要求が違うのに気づかなかった」
ある県の案件と市の案件を同時並行で進めていたとき、Copilotに「技術提案書を作って」と依頼したが、県のフォーマット要求(A4縦・2段組・図表は別紙)と市の要求(A4横・1段組・図表込み)の違いを指示し忘れ、フォーマット違いの書類を作ってしまいました。提出前に気づいたから良かったものの、修正に余計な時間がかかりました。
改善策:依頼プロンプトの冒頭に「案件カード」として発注機関・フォーマット要件・字数制限・評価項目を必ずセットするテンプレートを作りました。この「案件カード+プロンプト」のセット運用にしてからは、フォーマット誤りはゼロになっています。
成果:数字で見るBefore / After
2025年11月から2026年6月にかけての約8ヶ月間で、以下のような成果が出ています。
指標 | Before(AI導入前) | After(AI導入後) | 変化 |
|---|---|---|---|
入札書類作成にかかる週間工数 | 週16時間(中村一人) | 週2時間(中村一人) | ▲87.5%削減 |
1案件あたりの書類作成時間 | 平均8時間 | 平均1〜1.5時間 | ▲約80%削減 |
四半期あたりの入札参加件数 | 8〜10件 | 16〜18件 | 約1.8倍 |
四半期あたりの受注件数 | 平均5件 | 平均7件 | 1.4倍 |
受注率(入札参加件数に対する落札率) | 約50〜55% | 約40〜45% | 若干低下(※) |
中村の残業時間(月平均) | 月38時間 | 月12時間 | ▲68%削減 |
ツール導入コスト(月次) | 追加ゼロ(既存M365活用) | 追加ゼロ(既存M365活用) | コスト増なし |
(※)受注率が若干下がった理由は、以前は「確実に取れる案件しか手を挙げなかった」のに対し、今は「勝算50〜60%の案件にも積極的にチャレンジするようになった」ため。件数ベースの受注が増えているので、実態としてはプラスです。
中村本人の言葉を借りると、「以前は書類を書いている時間が苦痛でした。今は書類のことはCopilotに任せて、自分は技術的な中身を考えることに集中できています。仕事が楽しくなった」とのこと。数字以上に、この変化が大きいと感じています。
また、空いた時間で中村がUAV測量のオペレーター資格を取得し、ICT測量の提案が可能になりました。これが技術提案書の差別化にも直接つながっています。「書類の時間を削減した結果、スキルアップの時間が生まれた」という好循環が生まれています。
応用・発展:Copilotでさらにできること
入札書類以外への展開
入札書類での成功体験を経て、現在は他の業務にもCopilotを広げています。特に効果が出ているのが、以下の3つです。
- 業務完了報告書の作成:現場での計測データや写真記録をベースに、完了報告書の文章パートをCopilotに下書きさせています。これまで1件あたり3〜4時間かかっていたものが1時間以下になりました。
- 住民説明会用資料の作成:専門的な測量・設計の内容を、地域住民にわかりやすく説明するスライドの文章を作るのにCopilotが活躍。「専門用語を使わず、中学生でも理解できる表現で」というプロンプトが特に有効です。
- 社内技術マニュアルの整備:ベテランの技術者が持っているノウハウを口頭でインタビューしたものをテキスト起こしして、Copilotに体系的なマニュアルとして整形させています。属人化していた知識の形式知化が進んでいます。
次のステップ:Copilot Studioでの自動化
今後検討しているのが、Microsoft Copilot Studioを使った「入札書類自動生成フロー」の構築です。案件情報(案件名・発注機関・業務種別・評価項目)を入力フォームに打ち込むだけで、社内ライブラリの過去書類を参照しながら書類の下書きが自動生成される仕組みです。実現すれば、書類作成の工数をさらに半減できると見込んでいます。また、Teamsと連携して「この案件、誰が担当?期限は?」という情報管理も一元化したいと考えています。
まとめ:「手を挙げたくても挙げられない」を変えるために
地方の小規模事務所が官公庁案件で戦っていくうえで、技術力と同じくらい大事なのが「どれだけの案件に挑戦できるか」という量の問題です。書類作成に追われて本来の仕事が止まる——この状況は、AIを使えば今すぐ変えられます。
私たちが使ったのは、特別なツールではありません。すでに持っていたMicrosoft 365のCopilotと、過去書類の棚卸しと整理、それから「AIに何を任せて、何は人間が判断するか」のルール決めだけです。難しいプログラミングも、大きな投資も必要ありませんでした。
週16時間が2時間になった時間は、設計の品質向上にも、新しい資格取得にも、営業活動にも使えます。一番の変化は数字ではなく、「もっと多くの仕事に挑戦できる」という前向きな感覚を取り戻せたことでした。同じ悩みを持っている方に、ぜひ一度試してほしいと思います。まずは過去書類の整理から始めてみてください。
※本記事は架空の事例をベースに、実際のCopilot活用手法を組み合わせて構成した実践的事例記事です。プロンプト例は実際の業務に合わせてカスタマイズしてご活用ください。