介護施設がAI音声入力×要約ツールで介護記録を効率化、夜勤スタッフの残業を月平均12時間ゼロに近づけた実録

介護施設がAI音声入力×要約ツールで介護記録を効率化、夜勤スタッフの残業を月平均12時間ゼロに近づけた実録
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介護施設がAI音声入力×要約ツールで介護記録を効率化、夜勤スタッフの残業を月平均12時間ゼロに近づけた実録

「また終わらなかった……」

夜勤明けの朝6時半。利用者さんの朝食介助を終えた後、山田さん(仮名・40代・介護福祉士)がため息をついていた場面を、私は何度も目にしてきました。夜勤中に起きた出来事をメモしておいたはずが、記録システムへの入力が後回しになり、気づけば残業が2時間近くになっている。夜勤スタッフが月に抱える残業は平均12時間を超え、「記録のために働いているのか、介護のために働いているのか分からない」という声も出始めていました。

この記事では、私たちの施設がAI音声入力とGeminiを組み合わせることで、その「記録の重荷」をどう取り除いていったか、失敗も含めてありのままに書いていきます。ITが得意なスタッフが多い施設でもありません。それでもできた、というのが一番伝えたいことです。

背景:「記録が終わらない」は個人の問題じゃなかった

私が勤務するのは、定員80名の特別養護老人ホームです。夜勤は2名体制で回しており、夜間帯(16時〜翌9時)に発生した排泄介助・体位交換・バイタル測定・服薬確認・緊急対応などを、すべて記録として残さなければなりません。1名のスタッフが担当する記録件数は、軽い夜でも30〜40件。何か問題が起きた夜は60件を超えることもあります。

導入前に実施した内部アンケート(2025年9月実施・夜勤担当者18名対象)では、「記録業務に費やしている時間が長すぎる」と答えたスタッフが94%に上りました。また、「記録のストレスが離職を考えるきっかけになっている」と答えた人も38%いた。これはもう個人の問題ではなく、施設全体で解決すべき構造的な課題だと認識し直したのが、AI導入を検討し始めた最初のきっかけです。

同時期、介護業界でのAI活用事例がSNSやセミナーで話題になりはじめており、施設長から「うちでも試してみないか」という声がかかりました。予算は「まず小さく試す」方針で、月5,000円以内に収めることを条件に、私がプロジェクトリーダーを任されることになりました。

具体的な取り組み:音声メモ×Geminiで「書く」をなくした

使ったツールと全体構成

まず、導入したツールの全体像を整理します。特別なシステムを新たに購入したわけではなく、既存のスマートフォンと無料・低コストのサービスを組み合わせました。

  • 音声入力アプリ:iPhone標準の音声入力機能(追加費用ゼロ)
  • テキスト整形・要約:Google Gemini(無料プラン+一部Gemini Advancedを月2,900円で契約)
  • 記録管理システム:既存の介護記録ソフト(変更なし)
  • テキスト一時保管:Googleドキュメント(無料)

月にかかるコストはGemini Advancedの2,900円のみ。これを施設の備品費から捻出しました。

ステップ1:現場での「しゃべりメモ」習慣をつくる

一番最初にやったことは、ケア実施直後にスマホに向かって「しゃべる」習慣を作ることです。これまでは手書きメモを取ってから後でまとめて入力していたため、ケアの細かいニュアンスが抜け落ちていました。

具体的には、各スタッフのスマートフォンのメモアプリに「音声入力ボタン」をホーム画面に配置。排泄介助や体位交換が終わったら30秒以内にその場でしゃべる、というルールを作りました。

しゃべる内容はこんな感じです:

「山田花子さん、23時15分、トイレ誘導。尿あり、量は中程度、色は淡黄色で問題なし。本人の訴えは特になし。歩行は安定していた。」

最初はぎこちなかったスタッフも、1週間もすれば慣れてきました。「喋るだけでいいなら楽」という声が早々に出てきたのが印象的でした。

ステップ2:Geminiで介護記録文に整形する

音声入力で集めたテキストは、どうしても話し言葉になっています。「えーと」「なんか」「いつもより」といった曖昧な表現や、文法的に崩れた部分が混じる。これをGeminiに整形してもらいます。

私たちが実際に使っているプロンプトを公開します。

【プロンプト例①:音声メモの記録文への変換】

以下は介護スタッフが音声入力した記録メモです。介護記録として適切な文体(客観的・丁寧・簡潔)に整形してください。不明確な表現は「〇〇と思われる」「〇〇の様子あり」のように記録用の表現に変換してください。日時・氏名・ケア内容・観察事項の順に整理してください。

メモ:「山田花子さん、23時15分、トイレ連れてって、おしっこ出てた、量は普通くらい、色は薄い黄色で特に異常なし、歩きは今日は安定してたかな。特に本人からは何も言ってなかった」

これを入力すると、Geminiはこのように変換してくれます:

【23:15】山田花子様、トイレ誘導を実施。排尿あり(量:中程度、色:淡黄色、異常所見なし)。歩行状態は安定しており転倒等のリスクなし。本人からの訴えは特になし。

この変換に要する時間は約10〜15秒。スタッフがやることは、プロンプトにメモを貼り付けてボタンを押すだけです。

【プロンプト例②:夜間の申し送り文の自動生成】

以下は夜勤中の記録メモ一覧です。翌朝の申し送りに使える要約文を300字以内で作成してください。特に「通常と異なる点」「経過観察が必要な項目」を優先して記載してください。

記録メモ:(複数のメモをまとめて貼り付け)

【プロンプト例③:家族向け報告文の作成】

以下の介護記録をもとに、ご家族へお送りする月次報告の文面を作成してください。専門用語を避け、温かみのある文体で、ご本人の様子が伝わるように書いてください。400字程度。

記録:(1か月分の主要記録を貼り付け)

【プロンプト例④:ヒヤリハット報告書の下書き作成】

以下の状況説明をもとに、ヒヤリハット報告書の下書きを作成してください。「発生日時」「発生場所」「発生状況」「直接原因」「今後の対策(案)」の項目立てで書いてください。

状況:(スタッフが話し言葉で入力した内容)

【プロンプト例⑤:バイタル異常時のアセスメント補助】

以下のバイタルデータと観察メモをもとに、記録に追記すべき観察ポイントと、チームへの申し送り事項の案を提示してください。なお、これは医療的判断ではなく記録補助として使用します。

データ:体温37.8度、脈拍92、血圧145/88、「少し頭が痛い」との訴えあり

ステップ3:記録システムへのコピペで完了

Geminiが生成した文章を確認し(この確認作業は必ず人間が行うことをルール化しています)、既存の介護記録ソフトにコピー&ペーストして完了。確認込みで1件あたり1〜2分で終わります。

夜勤中の流れをまとめると:

  1. ケア実施後30秒以内にスマホへ音声メモ(約30秒)
  2. 勤務終了1時間前に、メモをまとめてGeminiで一括変換(約15〜20分)
  3. 変換結果を確認しながら記録ソフトへ入力(約20〜30分)

以前は「終了後に記録に向かって1〜2時間」というパターンだったのが、勤務時間内に収まるようになりました。

失敗談と改善:「うまくいかない」の連続だった最初の1か月

失敗①:音声認識が医療・介護用語を誤変換しまくる問題

最初の壁は、音声認識の精度でした。「褥瘡(じょくそう)」が「食草」に、「嚥下(えんげ)」が「演歌」に、「浮腫(ふしゅ)」が「不祥」に変換される、という笑えない事態が続出。スタッフから「こんなの使えない」という声が複数上がりました。

改善策:まず、専門用語はあえて「話し言葉」に置き換えてしゃべるルールを設定しました。「褥瘡」ではなく「床ずれ」、「嚥下」ではなく「飲み込み」と言うようにした。そして後工程のGeminiに「話し言葉・略語・誤変換が含まれている可能性があるため、文脈から正しい介護・医療用語に変換してください」という一文を追加したところ、精度が大幅に改善されました。

失敗②:Geminiが「それっぽいけど事実と違う」文章を生成する問題

2週目に発覚したのが、Geminiが文章を「補完」しすぎる問題です。「歩行が少し不安定」とメモしたのに、「歩行状態に著しい変化あり、転倒リスクが高まっていると考えられる」という、やや大げさな記録文を生成したことがありました。これは介護記録として事実の歪曲になりかねません。

改善策:プロンプトに「メモにない情報は絶対に追加しないこと。不明な場合は『〇〇は確認できず』と記載すること」という制約を明示的に加えました。また、生成された文章の確認ステップを「流し読み」ではなく「元メモと照らし合わせながら確認する」という具体的な手順に変更。確認チェックリストを作って記録ソフトの横に貼り出しました。

失敗③:「AIに任せれば全部やってくれる」という誤解が広がった問題

導入から3週目、ベテランスタッフのBさんから「最近の新人、記録の中身を全然確認せずにコピペしてるみたい」という報告が入りました。確認してみると、一部のスタッフがGeminiの生成文をほぼ無確認でそのまま貼り付けていたことが判明。中には明らかに氏名が前の記録と混在してしまっているケースもありました。

改善策:「AIは下書きを作るツール。最終責任は人間にある」というメッセージを再周知し、全スタッフ向けに30分の勉強会を実施。生成文の必ず確認する3ポイント(①氏名、②日時、③数値・観察内容)を「AIチェック3か条」としてラミネートしてナースステーションに掲示しました。この問題が出たことで、むしろAIとの正しい付き合い方がチーム全体に浸透したと思っています。

失敗④:高齢スタッフがスマホ操作に慣れるのに時間がかかった問題

60代のスタッフCさんは「スマホに向かって喋るなんて恥ずかしい」「誤操作が怖い」と最初は参加を渋っていました。

改善策:Cさんには無理に音声入力を強要せず、従来の手書きメモを続けてもらいながら、「手書きメモをGeminiに入力してもらう」サポート役を若手スタッフに担当させました。数週間後、Cさんから「自分でもやってみたい」という声が自然に上がり、現在は音声入力を使いこなしています。強制より「見て試したくなる」環境づくりが大切でした。

成果と数値:Before/Afterで見えてきたもの

導入から4か月後(2026年4月時点)の数値をまとめました。

指標

導入前(2025年9月)

導入後(2026年4月)

変化

夜勤スタッフの月平均残業時間

12.3時間

1.8時間

▲10.5時間(約85%削減)

記録1件あたりの所要時間

平均4.2分

平均1.5分

▲2.7分(約64%削減)

申し送り文の作成時間

20〜30分

5〜8分

▲約70%

記録の記載漏れ件数(月次)

平均8.4件

平均1.2件

▲86%

スタッフの「記録ストレス」スコア(10段階)

7.8

3.2

▲59%改善

月間ツールコスト

0円(記録のみ)

2,900円

月2,900円の追加

数字以上に大きかったのは、現場の空気の変化です。「記録が終わらない」という重苦しい雰囲気が薄れ、夜勤明けに笑顔で帰れるスタッフが増えました。冒頭で紹介した山田さんからは「夜勤が少し楽しくなった」という言葉をもらいました。これが一番うれしかった成果です。

コスト面でも、残業削減による人件費削減効果を試算すると月に約18万円(時給換算)。月2,900円の投資に対して約60倍以上のリターンが生まれています。

応用・発展:記録業務以外にも広がりはじめている

記録業務での成功を受けて、現在は他の領域へのAI活用も少しずつ試しています。

①ケアプランの下書き支援

ケアマネジャーが利用者の状態変化をまとめた音声メモをGeminiに渡し、ケアプランのアセスメント文の下書きを作成する取り組みを始めました。まだ試験運用中ですが、「ゼロから書く」より「直す」ほうが圧倒的に早いという感覚は、記録業務と同じです。

②研修資料の作成効率化

新人教育や感染対策研修の資料作りにもGeminiを活用しています。「介護初任者向けに、褥瘡予防の体位変換について分かりやすく説明する研修スライドの内容案を作ってください」というプロンプトで骨格を作り、管理者が内容を確認・修正するフローにしました。

③家族からの問い合わせ対応文の作成補助

「利用者の家族からメールで質問が来た。以下の内容に対して、施設として丁寧かつ正確な返信文の下書きを作ってください」というプロンプトも活用しています。担当者が文章を一から考える時間が半分以下になっています。

④多言語対応の可能性

現在、外国籍のスタッフが3名在籍しています。日本語での記録作成に苦労していた彼女たちが、自国語で音声メモを取り、Geminiに「この内容を日本語の介護記録文に変換してください」と渡す使い方を試み始めています。まだ試験段階ですが、可能性を感じています。

まとめ:「ツールの話」ではなく「働く人の話」だと思っている

この取り組みを振り返ると、AIを導入したことよりも、「記録に苦しんでいるスタッフをちゃんと見ていたか」という問いへの答えだったと思います。月12時間の残業は、小さな数字に見えるかもしれません。でも、それが夜勤明けの疲弊した体に積み重なっていた事実は、小さくない。

使ったのはスマホとGemini、月2,900円。特別なシステムも、専門知識も不要でした。最初の一歩は「試してみる」だけです。失敗もたくさんありましたが、それを一緒に乗り越えたことでチームの結束も深まりました。

介護の現場は、記録のためにあるんじゃない。利用者さんのためにある。その当たり前のことに、もっと時間とエネルギーを使えるようにするために、AIはこれからも使い続けていきます。同じ悩みを抱えている方に、少しでもこの記録が参考になれば嬉しいです。

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